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命のバトンタッチ

おはようございます。

【1日1話】3月20日 鎌田實名誉院長(諏訪中央病院)

 

僕が看取った患者さんにスキルス胃がんに罹った余命三か月の女性の方がいました。ある日病室のベランダでお茶を飲みながら話していると、彼女がこういったんです

「先生、助からないのはもう分っています、だけどもう少しだけ長生きさせてください」彼女はその時42歳ですからね、そりゃそうだろうなと思いながら返事に困って、黙ってお茶をのんでいた。すると彼女が「子供がいる、子供の卒業式まで生きたい、卒業式を母親としてみてあげたい」と言うんです。九月のことでした、彼女はあと三か月、十二月くらいまでしか生きられない。でも私は春まで生きて卒業式

をみてあげたい、と。子供のためにという思いが何かを変えたんだと思います。奇跡は起きました。春まで生きて卒業式に出席できた。

こうしたことことは科学的にも立証されていて」、例えば希望をもって生きている人の方が、がんと闘ってくれるナチュラルキラー細胞が活性化されるという研究が発表されています。おそらく彼女の場合も、希望が体の中にある見えない3つのシステム、内分泌、自律神経、免疫を活性化させたのではないかと思います。さらに不思議なことがおきました。彼女には2人のお子さんがいます。上のことが高校三年生で、下の子が高校二年生。せめて上の子の卒業式までは生かしてあげたいと僕たちは思っていました。しかし彼女は、余命三か月を言われてから、1年8か月生きて二人のお子さんの卒業式を見てあげることができました。そして、1か月ほどして亡くなりました。彼女が亡くなった後、娘さんが僕のところにきて、びっくりするような話をしてくれたんです。僕たち医師は、子供のために生きたいと言っている彼女の気持ちを大事にしようと思い、彼女の体調がよくなるように外出許可を出していました。「母は家に帰ってくる度に、私たちにお弁当を作ってくれました。」と娘さんは言いました。彼女が最後の最後に家に帰った時、もうその時には立つこともできない状態です。病院は引き留めたんだけど、どうしても帰りたいと。そこで僕は「じゃぁ、家に布団を敷いて家の空気だけ吸ったらもどってらっしゃい」と送り出しました。ところがその日、彼女は家で台所にたちました。立てるはずのない者が最後の力を振り絞ってお弁当を作るんですよ。その時のことを娘さんはこのように話してくれました。「お母さんが最後に作ってくれたお弁当はおむすびでした。そのおむすびを持って学校に行きました。久しぶりのお弁当がうれしくてうれしくて。昼の時間になってお弁当を広げようと思ったら、切なくて切なくて中々手に取ることが出来ませんでした。」

お母さんの人生は40年ちょっと、とても短い命でした。でも命は長さじゃないんですね。お母さんはお母さんなりに精一杯必死に生きて、大切なことを子供にちゃんとバトンタッチした。人間は「誰かのために」と思ったその時に希望が生まれてくるし、その希望を持つことによって免疫が高まり、生きる力が湧いてくるのではないかと思います。